ぬりえる

「塗り絵なんかやらない」と言われたとき、どうすればいいのか

認知症拒否アプローチ

塗り絵を勧めたら「そんなもの、やらないよ」と返されたことはありませんか。

デイサービスのスタッフさんからも、ご家族からも、この悩みは繰り返し聞きます。認知症予防にいいからと思って勧めているのに、ご本人がやりたがらない。無理強いはしたくないけど、何かやってほしい。

この問題、原因を理解すると対応のしかたが変わります。

拒否の裏にある理由

「やりたくない」には、ほぼ必ず理由があります。でもご本人がそれを言語化できないことも多いので、周囲が推測する必要があります。

よくある理由を挙げてみます。

まず「子どもっぽいと感じている」ケース。80年間生きてきた方に塗り絵を渡すと「私は子どもじゃない」と感じることがあります。特に男性の高齢者に多い反応です。塗り絵に対して「女子供の遊び」という認識を持っている世代でもあります。

次に「できない自分を見たくない」ケース。以前は上手にできたことが、手の震えや視力の低下でできなくなっている。その現実を突きつけられるのが怖いから、最初から拒否する。これは自尊心の問題です。

そして「体調が悪い」ケース。認知症に限らず、体調が優れないときは何をやる気力もなくなります。ある医師の報告では、ビタミンD不足で不穏になっていた方が、栄養状態を改善したら表情が明るくなり、塗り絵に取り組むようになったという例もあります。

最後に「そもそも興味がない」ケース。全員が塗り絵を好きになるわけではありません。それは当たり前のことです。

やってはいけないこと

拒否されたときに一番やってはいけないのは「説得」です。

「ボケ防止になるから」「楽しいから」「みんなやってるから」。こういう言葉は、ご本人からすると「自分の意思を無視されている」と感じます。認知症の方であっても、好き嫌いの感情は最後まで残ります。

もうひとつやってはいけないのは「塗り絵を目の前に置いて去る」です。これは「やれ」という無言の圧力になります。

興味を持ってもらうための工夫

ではどうするか。いくつかのアプローチがあります。

ひとつは「見せるだけにする」方法です。スタッフさん自身が塗り絵をしている姿を見せる。または他の利用者さんが楽しそうに塗っている場面を自然に見えるようにする。「あら、何やってるの?」と聞いてきたら、初めて勧めてみる。

「自分からやりたいと思った」という感覚が、継続には不可欠です。

もうひとつは「塗り絵と言わない」方法です。「色を塗ってみませんか」ではなく「この花、何色だと思います?」と聞いてみる。モチーフについて会話する中で「ちょっと塗ってみましょうか」と自然に移行する。

入り口を「塗る作業」ではなく「会話」にすると、抵抗感がぐっと下がります。

もうひとつは「モチーフを本人に選ばせる」方法です。いくつかの選択肢を見せて「どれが好きですか?」と聞く。自分で選んだものには愛着が湧きます。「やらされている」から「自分で選んだ」に変わるだけで、取り組む態度がまったく違ってきます。

男性高齢者へのアプローチ

塗り絵を特に拒否しやすいのは男性の高齢者です。

「塗り絵は女の子の遊び」という感覚が強い世代なので、花や動物のイラストを渡しても興味を示さないことが多いです。

効果的なのは、モチーフを変えることです。車、電車、飛行機、城、船。こういったモチーフだと「おっ」と興味を示す方がいます。

地図や建物の図面のような「設計図っぽいもの」も意外と反応がいいです。塗り絵を「アート」ではなく「作業」として提示すると、男性は取り組みやすくなる傾向があります。

無理にやらなくていい

ここまで書いておいて元も子もないことを言いますが、どうしても興味を持たない方には無理に勧めないでください。

塗り絵はあくまで認知症予防の手段のひとつに過ぎません。散歩、料理、園芸、音楽、将棋、折り紙。脳を使う活動はほかにもたくさんあります。ご本人が楽しめるものを見つけることが一番大事です。

親が認知症と診断されたときに焦る気持ちはよく分かります。でも「何かやらせなきゃ」というプレッシャーは、ご本人にも家族にもストレスになります。

塗り絵が合わなかったら、別のものを試す。それだけのことです。

ただし、もし塗り絵に興味がありそうなら、選び方を間違えなければ楽しんでもらえる可能性は十分にあります。大事なのは「どの塗り絵を渡すか」です。