ぬりえる

手が震えて塗り絵ができない、を解決する方法を考え続けている話

手の震え塗り絵バリアフリー

高齢者に塗り絵を勧めたとき、一番多く返ってくる言葉があります。

「手が震えるから、うまく塗れないのよ」

この一言で、塗り絵をやめてしまう方がたくさんいます。実はこれが高齢者が塗り絵を続けられなくなる最大の理由でもあります。

65歳以上の約5%が本態性振戦を持っていると言われています。パーキンソン病を含めると、手が震える高齢者の数はかなりの人数になります。「塗り絵は手先が器用な人の趣味」と思い込んで、最初から諦めてしまう方も少なくありません。

でも、本当に手が震えたら塗り絵はできないんでしょうか。

紙の塗り絵でできる工夫

まず、紙の塗り絵でもできることがあります。

ひとつは、太い線で描かれたイラストを選ぶこと。一般的な塗り絵の輪郭線は0.5mm〜1mm程度ですが、3mm以上の太い線なら、多少はみ出しても線の幅の中に収まります。見た目にも影響が少ないです。

もうひとつは、クレヨンやパステルなど、太い画材を使うこと。細い色鉛筆だと力のコントロールが難しいですが、太いクレヨンなら握りやすく、はみ出しも「味」になります。

紙のサイズを大きくするのも効果的です。A4ではなくA3サイズにすれば、1つ1つのパーツが大きくなるので塗りやすくなります。

ただ、これらの工夫には限界があります。震えの程度がひどい方だと、太い線でもはみ出してしまいます。そうなると「やっぱりダメだ」という気持ちになってしまう。

デジタルならできること

ここでデジタルの出番です。

タブレットやスマートフォンの塗り絵アプリでは、紙ではできないことがいくつかあります。

まず「はみ出し防止」です。領域を自動認識して、指がどこを触っても線の外側には色がつかないようにできます。震えがあっても、結果的にきれいに仕上がります。

次に「タップ塗り」です。指で領域をタップするだけで、一瞬で色が塗れます。なぞる必要がないので、手の震えはまったく関係ありません。

さらに「震え補正」という技術もあります。タッチの軌跡を自動でスムージングして、ガタガタの線を滑らかにする処理です。お絵描きアプリではすでに一般的な技術ですが、塗り絵に応用しているサービスはまだほとんどありません。

「やり直し」ができるのも大きいです。紙に一度塗った色は消せませんが、デジタルなら何度でもやり直せます。「失敗した」というプレッシャーがなくなります。

「できた」という感覚が大事

手が震える方にとって、日常生活の中で「うまくできない」という場面は増える一方です。

字がうまく書けない。箸で豆がつかめない。ボタンがうまく留められない。そういう小さな「できない」が積み重なると、何かに取り組む気力そのものが失われていきます。

塗り絵は、そういう方にとって「できた」を取り戻す手段になり得ます。ただし、それは塗り絵の側が「できる」ように設計されていればの話です。

普通の塗り絵を渡して「はみ出しちゃったね」となったら、また「できない」が増えるだけです。

世界を見てもまだない

海外にはシニア向けの塗り絵アプリがいくつかあります。Happy Color、Vita Color for Seniors、Jolly Color for Seniorsなど。

ただ、これらのアプリを調べてみると、基本的に「ボタンを大きくした」「文字を大きくした」という対応がほとんどです。手の震えに対する技術的な対策を実装しているアプリは、2026年2月時点で見つかりませんでした。

つまり「手が震える人が塗り絵を楽しめる仕組み」は、世界的に見てもまだちゃんと作られていない領域なんです。

私たちが作ろうとしているもの

「ぬりえる」では、この問題を正面から解決しようとしています。

タップ塗り、はみ出し防止、震え補正。この3つの機能を組み合わせて、手が震えていても「きれいに完成できる」塗り絵を作ります。

技術的にはそこまで難しいことではありません。タッチイベントのスムージング処理や、SVGの領域判定は、既存のWeb技術で実現できます。

難しいのは技術ではなく「本当に高齢者が使えるUIにできるか」です。どれだけ優れた機能があっても、画面が複雑で操作がわからなければ意味がありません。

ボタンは最低48px以上。画面の情報量は極限まで減らす。タップしたら何が起きるか、常に予測できるようにする。このあたりの設計が、実は一番時間をかけている部分です。

開発の進捗はこのサイトで共有していくので、興味がある方はときどき覗いてみてください。