「利用者さんに塗り絵を出しておけば、しばらく落ち着いてくれる」
介護の現場で、そう思ったことがあるスタッフさんは少なくないと思います。
でもあるとき、実際に自分で塗り絵をやってみた介護士さんがこんなことを呟いていました。「やってみないとわからなかった。これ、けっこう集中力いるし疲れる」と。
この気づきは、たぶんすごく大事です。
やってみると分かる「集中力問題」
健康な大人でも、塗り絵に15分以上集中するのはそれなりに疲れます。
目は線を追い続けなきゃいけない。手は細かい動きを続けなきゃいけない。どの色にするか判断し続けなきゃいけない。地味ですが、脳と身体をずっと使い続ける作業です。
これを80代の、しかも認知機能が低下している方にお願いしているわけです。
介護士さんが自分でやってみて「大変だ」と感じるのは当然で、その感覚はたぶん正しいです。利用者さんが途中でやめてしまうのは、飽きたからじゃなくて疲れているから、ということが多いのかもしれません。
「簡単にしすぎてもダメ」のジレンマ
じゃあ簡単にすればいいかというと、そう単純でもありません。
あまりに簡単な塗り絵を渡すと「子ども扱いされている」と感じる方がいます。特に認知症の初期段階の方は、自分の状態をある程度理解しているので、幼稚に見える塗り絵には抵抗を示します。
かといって複雑すぎると手が止まる。このバランスが本当に難しい。
現場のスタッフさんが「ちょうどいい塗り絵」を探すのに苦労しているのは、このジレンマがあるからです。理想は利用者さんの状態に合わせて3段階くらいの難易度を用意することですが、毎回それを準備する余裕がある施設はなかなかありません。
「皆様よく頑張りました」の裏側
施設のSNSアカウントを見ると、塗り絵レクの報告で「難しい作品もありましたけど、皆様よく頑張りました」というコメントをよく見かけます。
この言葉の裏には「本当はもっと利用者さんに合ったものを用意したかった」というスタッフさんの気持ちがあるように思えます。
実際、介護施設のレクリエーションは常にネタ切れとの戦いです。毎日違うことをやらなきゃいけない。準備の時間は限られている。塗り絵は準備が比較的楽だから採用されていますが、それでも「最適な塗り絵を選ぶ」ところまでは手が回らない。
介護士さんが知っておくと楽になること
塗り絵が認知症予防に効果があるという研究データはありますが、効果を発揮するにはいくつかの条件があります。
ひとつは、5分〜15分で完成できるものを選ぶこと。利用者さんが「できた」と感じられる体験をつくることが、脳への良い刺激になります。30分かかる塗り絵で途中離脱するより、5分で完成する塗り絵を3枚やるほうが効果的です。
もうひとつは、完成後に声をかけること。「きれいですね」「この色の組み合わせ、素敵ですね」。塗り絵の効果は、塗っている最中だけでなく、完成後のコミュニケーションでも得られます。
そして、無理にやらせないこと。塗り絵を拒否する方にはそれなりの理由があります。手の震えで恥ずかしい、目が疲れる、過去に嫌な体験があった。理由を探って、別のアクティビティを提案するのも立派なケアです。
道具が変わると楽になるかもしれない
今の塗り絵レクの大変さの多くは、紙と色鉛筆という道具の制約から来ています。
準備の手間、片付け、利用者ごとの難易度調整、記録の手書き。これらは道具が変わるだけでかなり楽になる部分です。
スタッフさんの仕事は、塗り絵を準備することではなく、利用者さんと向き合うことです。準備や記録に追われている時間を、利用者さんとの会話や観察に使えたら、レクの質はもっと上がるはずです。
私たちが「ぬりえる」を作っている理由のひとつは、スタッフさんの負担を少しでも減らしたいということです。難易度の自動調整、片付け不要、活動記録の自動生成。そういう仕組みがあれば、スタッフさんは本来のケアに集中できます。